「損益分岐点が何か」ということをお話する前に、「利益管理」についてお話しなければなりません。
事業を営む会社の最大にして重要な目的の一つが「利益」を生み出すことです。この利益を生み出すために、どう適切に行動すべきかが利益管理といわれるものです。
この利益管理の代表的な手法が損益分岐点分析なのです。
損益分岐点分析とは何か
損益分岐点売上高は文字通り、利益も損失も生じない「損益分岐点」における売上高のことをいいます。
つまり、売上高と費用が一致(売上高=総費用)して、利益がゼロになる売上高のことです。
「損益分岐点分析」は、生産量や売上高(Volume)の変化に伴う利益(Profit)と費用(Cost)の変化に関する分析手法のことで、頭文字をとってCVP分析とも呼ばれ、利益計画、予算編成、意思決定などに用います。

例えば、赤字企業にとっては、どれだけ売上高を増やせば黒字転換できるのか、黒字企業にとっては、どれだけ売上高が下がれば赤字になってしまうのか、ということが分かるようになります。
利益(黒字) 実際の売上高 > 損益分岐点売上高
利益ゼロ 実際の売上高 = 損益分岐点売上高
損失(赤字) 実際の売上高 < 損益分岐点売上高
損益分岐点を理解することで意識と行動が変わる
競合の多い市場においては、他社よりも安く、値引きを行うことで顧客獲得を行うことが往々にしてあります。
また、こうした値引きの権限は担当者レベルに委ねられている企業も多くあります。
もし管理会計の知識があれば、もし損益分岐点に関する知識があれば、値引きした金額そのものの真の意味を理解することができるはずです。
5%の値引き=5%の利益が減るだけという、安易な発想ではなく、相違した値引きが会社全体の利益減少につながる意識を持つ必要があります。
そこで必要になってくるのが、損益分岐点分析です。これを知れば、5%の値引きが5%の利益減少ではなく、赤字になる場合もあることが理解できるはずです。
こうした、管理会計の知識は、管理部門や事業責任者だけに求められるものではなく、営業担当者にとっても必須の知識と言えます。
損益分岐点分析を事業に生かす
では損益分岐点や、損益分岐点分析が実際に事業にどのように生かされてくるのでしょうか。
ここでは、実務上で使う可能性が高いと思われる、損益分岐点比率と安全余裕率について見ていくこととします。
1. 損益分岐点比率
損益分岐点比率とは
損益分岐点比率(損益分岐点売上高比率)とは、実際の売上高と損益分岐点売上高の比率を計算した指標のことをいいます。
この比率が低いほど(実際の売上高が損益分岐点売上高より多いほど)、利益が多く、不況に対する抵抗力(不況抵抗力)が強く、会社の収益力は高いと判断できます。
つまり、損益分岐点比率は売上が落ち損益分岐点売上高を下回り、赤字になってしまうまでどの程度余裕があるかをを見る指標であると言えます。
実際の売上高が損益分岐点売上高に対して大ききれば大きいほど、赤字になるまでの余裕も大きくなり、逆の場合は余裕が少なくなることを示します。
損益分岐点比率が0%に近くなればなるほど、赤字への耐性は強くなります。100%を超えてしまったは場合は、赤字に陥っている状態を示しています。

損益分岐点比率の求め方
損益分岐点比率は、以下の式で求められます。
損益分岐点比率(%) = 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高 × 100
実際の例を使って損益分岐点比率を求めてみましょう。
損益分岐点売上高が1,500万円で、実際の売上高が3,000万円だとすると、その損益分岐点比率は次のようになります。
損益分岐点比率 = 1,500万円 ÷ 3,000万円 × 100 = 50%
これは、売上高が仮に50%(=100%-50%)減少しても「売上=経費」となることを示しています。
なお、損益分岐点売上高は損益分岐点売上高 = 固定費÷(1-変動費率)と表せられます。
(変動費については、こちらの記事で詳しく解説しています。)
2. 安全余裕率
安全余裕率とは
安全余裕率とは、現在の売上が損益分岐点売上高に対してどの程度余裕があるかを知ることができる指標です。
実際の売上高と損益分岐点の距離を知るための指標、と考えていただくとよりイメージが付きやすいかと思います。(下図参照)
実際の売上高が損益分岐点より右側(実際の売上高 > 損益分岐点売上高)の場合、安全余裕率はプラスとなり、逆の場合はマイナスとなります。

安全余裕率の求め方
それでは安全余裕率の求め方を説明する前に安全余裕率の式を先に示してしまいます。
安全余裕率 =(現在の売上高 - 損益分岐点売上)÷ 現在の売上 × 100
至ってシンプルですが、実際に、例を示しながら安全余裕率の計算方法を見ていきましょう。
損益分岐点が1,500万円で、実際の売上高が3,000万円だった場合、
- 損益分岐点比率:1,500万円 ÷ 3,000万円 = 50%
- 安全余裕率:(3,000万円 ー 1,500万円) ÷ 3,000万円 = 50%
- 損益分岐点比率+安全余裕率:50% + 50% = 100%
この式を見てわかるように、安全余裕率と損益分岐点比率を足すと必ず100%になります。 したがって、安全余裕率 = 100 - 損益分岐点比率とも表せられます。
今回の場合はプラスの数字となっています。これは、現在の売上3,000万円から150%の1,500万円減れば、損益分岐点売上になることを表しています。
これがマイナスの数字となった場合(実際の売上高が損益分岐点を下回っている場合)は、現在の売上をその分増やせば、売上=経費となることを意味します。