ビジネスを成功へと導く指針であるKPI。
サブスクリプション型ビジネスモデルで用いられる KPI をご紹介する第一弾はMRR、ARPU、CACについてです。具体例を用いて、指標の意味と実務での活用方法を解説します。
サブスクリプション型ビジネスの中でも特に代表的な、マイクロソフト社が提供する Office365、有料会員サービスの Amazon Prime、Netflix や Apple Music などの配信サービスだけに限らず、近年では様々なジャンルのサブスクリプション型ビジネスが業界や業態を問わず拡がりを見せています。
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アメリカレコード協会 RIAA(The Recording Industry Association of America)による2018 年度収益報告によると、音楽配信サービスを提供する企業全体の平均サブスクリプション数(登録者数)が 5,000 万人(前年比 42%増加)を超え、年々大幅に伸びている傾向にあります。
米国における、2018 年度レコード業界総収益の内 60%以上を占める 54 億ドルの収益が、継続課金型サービスから生まれているのが窺えます。

こうしたサブスクリプション型モデルは、異なる料金プランや利用プランを提供し、多種多様な顧客のニーズを満たしながら、継続的な収益を得ることが可能になるビジネスモデルとして注目を集めています。そこで今回の記事では、サブスクリプション型のビジネスモデルで用いられる、企業が追跡すべきいくつかの重要な指標(KPI)の第一弾としてお話しさせて頂きます。
経常収益(定期収益)
まず、以前取り上げた経常収益(定期収益)についての指標をご紹介させて頂きます。
経常収益(Recurring Revenue)とは、毎期経常的・反復的に生まれる収益のことを指していました。
この収益を理解し分析することは、収益増加の勢いを維持したり、収益の減少の原因を特定・対処するために役立ちます。
そうした経常収益を期間単位で見る指標を、MRRやARRと呼びます。
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月次経常収益(MRR−Monthly Recurring Revenue) とは
月次経常収益(MRR)は、ある月における収益のことを指します。毎月決まって発生する売上のみを計算対象にし、初期費用や追加購入費用などの 1 回だけしか発生しない売上は除かれて計算されます。
前月と比較した際のビジネスの成長率、新規顧客獲得数や解約数がどの様に収益に反映しているのかといった分析に用いられます。
■ MRR を増加させる要因
新規顧客の獲得、アップセル(より値段の高いプランへの切り替え)、クロスセル(既存顧客に追加で購入してもらう)
■ MRR を減少させる要因
解約や退会、ダウンセル(値段の低いプランやサービスへの切り替え)
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この MRR グラフの中で注目して頂きたいのが、8 月〜12 月で見られる平行線状の期間です。この期間は、顧客を獲得するのと同じペースで顧客を失ってしまっていたり、新規顧客数が増加するのと同時に既存顧客が安いプランに切り替えをしたりなど、様々な原因が推測できます。
そのため、こうした期間が続いている場合は、これから紹介する他の指標と比較、分析しながらビジネス戦略を練っていくことが大切になります。
年間経常収益(ARR−Annual Recurring Revenue)とは

年間経常収益(ARR)は文字通り1 年間に入ってくる収益のことを指します。したがって、月ごとの指標である MRR を単純に12 倍すればよいことになります。
こちらも MRR の場合と同様に、単発的な 1 回限りの収益は計算対象に含めないことに注意が必要です。
ユーザー平均単価(ARPU−Average Revenue Per User)とは

ユーザー平均単価(ARPU)とは、顧客一人あたりの平均収益を示し、各顧客から平均してどのくらいの収益を得たかを表す指標です。
この指標は、同業種間の比較の為に投資家達が用いたり、企業が将来的な顧客からの収益を予測する為など、様々な場面で役立ちます。
また、顧客平均単価(ARPC–Average Revenue Per Customer)と呼ばれることもあります。
スマホのゲームアプリを提供する企業を例に見てみましょう。
ある月の総収益が 500 万円で、その月のアプリ利用者総数が1万人だったとした場合、ARPU は 500 円(= 5,000,000 円 ÷ 10,000 ユーザー)となり、ユーザー 1 人あたりにつき 500 円の収入を得ていることになります。
課金ユーザー平均単価(ARPPU–Average Revenue Per Paid User)とは

ゲームアプリだけに限らず、先ほど挙げた音楽配信サービスを提供する企業でも、課金ユーザー、無課金ユーザーのどちらもが存在します。
ARPU ではどちらのユーザーも合算して計算される為、もし課金ユーザー数が明確な場合は、総収益を総ユーザー数で割るのではなく、課金ユーザー数で割ることにより、課金ユーザー平均単価(ARPPU–Average Revenue Per Paid User)を求めることができます。 「アープ」とも呼ばれます。
総ユーザー 1 万人の中で 25%が課金ユーザーだった場合、2,500 人 (= 10,000 人 x 25%)が課金ユーザーとなります。
ARPPU は 2,000 円(= 5,000,000 円 ÷ 2,500 課金ユーザー)となり、課金ユーザー 1 人あたり 2,000 円の収益を生むことがわかります。
MRR と同様、この指標も顧客数、収益の変動によって増加・減少します。
プロモーションをかけた月にどのくらい影響があったのか、企業が提供するサービスに顧客がどのくらいの価値を見出しているのかが映し出される重要な指標であると言えます。
顧客獲得費用(CAC−Customer Acquisition Cost)とは

顧客獲得費用(CAC)はマーケティングや販売経費など、顧客獲得を目的とするコストを顧客一人あたりにどのくらい費やされたのかを計る指標になります。
CAC を分析することで、マーケティング戦略の有効性、予算の見直し、費やされた経費が顧客獲得にどのくらい反映しているのかなど、将来的に安定したビジネスプランを設計していくことに役立つ指標の一つです。
例えば、ネット通販企業 X は、ある月に広告宣伝費として40万円費やしたとします、その月に合計注文数800件を得ることができたと仮定すると、顧客一人当たりに500円(= 400,000円 ÷ 800件)の広告費を費やしたことになります。これだけでは、ただの数字でしかありません。
しかし、ここに顧客からの注文平均額が 1,000 円だった場合を考慮に入れると、顧客一人当たりの利益を算出することが可能になります。
平均注文額CAC顧客一人当たりの利益1000 円-500 円=500 円
この様に、経費は直接的に利益に関係してくる為、CAC を分析し経費の削減に努め、利益拡大を図ったり、平均顧客単価の向上に反映させたりと、様々な側面で活躍する指標です。
また、マーケティング、営業、財務それぞれの部署で用いることで、より効果的で経済的な見込み顧客へのアプローチを企図していくことが可能になります。
今回の記事では、サブスクリプション型ビジネスで用いられる重要な指標についての第一弾として、MRR、ARPU、CAC の説明をさせていただきました。
次回の記事では、第二弾として今回紹介した指標同様に、サブスクリプション型ビジネスで用いられるコンバージョン率、解約率、LTV指標についてお届けしようと思います。