会社を財務分析する際の方法の一つに、「安全性分析」というものがあります。
これは、その会社が支払能力があるのか、財務的に見て健全なのかを分析するためのものです。言い換えれば、その会社の倒産するリスクを分析しているともいえます。
黒字で売り上げが伸びていても、財務的に健全ではない…といったことも。
気が付けば黒字倒産!という罠にハマってしまわないために、管理会計基礎シリーズの今回はこの「安全性分析」の必要性と方法について実例を交えて解説していきます。
安全性分析の必要性
黒字倒産とは
さて、前段で黒字倒産の可能性に触れましたが、黒字倒産とは、「損益計算書(P/L)上では、黒字の状態(利益が出ている)であるにも関わらず、企業が倒産してしまうこと」をいいます。
そもそも倒産してしまう状態というのは、返済(支払)しなければならない債務の返済(支払)ができず、経営が行き詰った状態のことを指します。
東京商工リサーチの2017年(1-12月)の調査によると、倒産企業の赤字率は53.7%であることから、黒字倒産の比率は約半数であり、決して珍しい事象では無いことが分かります。

赤字での倒産というとイメージも付きやすく、一般的にも最良の状態ではないということは、おそら想像に難くないと思われます(敢えて赤字にしているところもありますが…)。
一方で、黒字倒産は一見すると順調に見えるため、注意が必要です。
黒字倒産の原因と仕組み
ここで、黒字倒産の仕組みを分かり易くするために少し極端な例で説明させていただきます。
会社Xが2018年の1月1日に設立され、1月中にに1,000万円分の仕入を行ったとします。
この仕入の支払期限は2月末です。また、1月中の売上高は1,500万円あり、この入金は3月末となっています。
この場合、2月末に支払うべき1,000万円分の現金が手元になく、1月の売上高が1,500万円あり、一見黒字だとしても支払が行えず、倒産状態に陥ってしまうのです。
2018年1月1日 会社X設立
1月の仕入 1,000万円 ⇒ 2月末までに支払い
1月の売上高 1,500万円 ⇒ 3月末に入金
具体的には、銀行取引の停止処分を受けたり、破産手続きを申請したりすることで倒産となってしまいます。
安全性分析の概要
こうした黒字倒産に代表されるような、企業の支払能力に関わる安全性分析は短期的な安全性といわれます。
黒字倒産のように、現金がショートしてしまい支払いができなくなることがないように、短期的な安全性の分析を行わなければなりません。
おおむね1年以内における決済能力を判断するために行われます。
短期的な安全性に用いられる指標は、流動比率、当座比率などがあります。
ちなみに、以前ご紹介した損益分岐点分析は、採算性に関する分析と呼ばれ、今回ご紹介する安全性の分析とは目的が異なります。
一方で、長期的な安全性と呼ばれるものがあります。これは、財務構造の健全性を表す際に用いられます。
会社の資本には自己資本といわれる返済の必要のない資本(株主の出資など)と、金融機関から借り入れた返済の必要な他人新本があります。
自己資本が少なく、借入に依存している体質の場合、売上高が落ち込んだ場合、返済できなくなる可能性があります。
こうした長期的な安全性についての指標としては、自己資本比率、固定比率、固定長期適合率などがあります。
安全性分析の指標
ここでは、よく用られる指標を5つだけ取り上げ解説させていただきます。
① 当座比率
当座比率 = 当座資産 ÷ 流動負債
当座資産を流動負債で割った値を当座比率といいます。これは、会社の短期的な支払担保能力を判断する際に用いられます。
当座比率が高いほど近い将来の支払い能力が高いといえ、当座比率は少なくとも100%以上を目指すべきとされています。
しかし、現実には当座比率が100%を超えていても、短期的支払能力に問題を抱えている会社も少なくありません。
これは、賃借対照表の数字が決算期末の一時点の状態を表しているにすぎないからです。
決算期末において、たまたま好転する材料が揃っていたということも十分に考えられますので、単純に当座比率が100%を超えているからといって、その会社の支払能力が高いと判断するのは時期尚早です。

【用語】
- 当座資産とは、現金預金、受取手形、売掛金、有価証券など、流動資産の中で近い将来現金に変わる資産のことです。
- 流動負債とは、おおむね1年以内に現金支出をもたらす負債のことです。
- 固定負債とは、上記の流動負債の条件に適合しない負債が分類されます。
② 流動比率
流動比率 = 流動資産 ÷ 流動負債
当座資産に棚卸資産を加えた流動資産を流動負債で割ったものを流動比率といいます。一般的には200%以上が理想とされていますが、実際には150%以上あれば短期的な支払い能力に問題が無いといわれています。
流動負債とは、おおむね1年以内に現金支出をもたらす負債のことでした。一方で、流動資産とは、1年以内に現金収入をもたらす資産のことをさしています。
つまり、流動比率が100%以上(流動資産>流動負債)であることが、支払能力があると推測される状態といえます。

逆に流動資産よりも流動負債が大きくなっている場合は、支払能力が無く、危険な状態であることが分かります。
しかし、流動比率についても①の当座比率同様に万能の指標ではありません。一例として、棚卸資産が流動資産に含まれていることに注意する必要があります。
実際の商品として売り物にならないようなモノが、大量に長期間倉庫に眠っているということも考えられます。こうした棚卸資産は、すぐに売れて現金化されるものではありません。
こうした全く価値のないものも、棚卸資産に交じっていることも考慮に入れなければなりません。
【用語】
流動資産とは、おおむね1年以内に現金収入をもたらす資産のことです。
③ 自己資本比率
ここまでは短期的な安全性について見てきましたが、ここからは財務の長期的な安全性に関する指標を見ていきましょう。
自己資本比率 = 自己資本 ÷ (総資本 + 自己資本)
はじめに自己資本比率です。自己資本を総資本で割った値で、この比率が高いほど長期の安全性が高いということができます。
一般的には50%を超えていると優良企業とされ、30%程度あれば安全であるといわれています。
自己資本は、株主からの拠出された出資金や、利益剰余金(過去の税引後純利益の蓄積)などが含まれています。
この自己資本が、他人資本(借入金など外部から調達した資本)に対して比率が高いということは、返済する必要がない、安定した資金があるということを意味するのです。
【用語】
自己資本とは、資本金、資本剰余金、利益剰余金などのことをいい、株主から出資された出資金や、過去の税引後純利益の蓄積といった、返済する必要がない資本のことをいいます。
他人資本とは、流動負債、固定負債といったデットファイナンス(金融機関などからの借入)によって調達した資金のことで、返済義務を伴っています。
④固定比率
固定比率 = 固定資産 ÷ 自己資本
固定比率は、固定資産を自己資本で割った値で、固定資産に投資した資金のうち、どれだけが返済義務のない自己資本でまかなわれているかを見る指標です。一般的には100%を切るべきとされています。

一般的に、固定資産への投資を回収するには長期間かかると考えられます。返済義務のある借入金で設備投資などをした場合、返済のために資金が不足することが考えられます。
そうした観点から、返済義務のない自己資本内で投資を行うべき(=固定比率100%以内)とされています。
【用語】
固定資産とは、事業を運営するにあたり、長期(通常1年以上)にわたって使用する有形・無形の財産のことをいいます。
⑤ 固定長期適合率
しかし、一方で大規模な投資を行う場合(電力、ガス、鉄道事業など)、自己資金でまかなうことは困難です。そうした場合に、長期借入や社債といった長期負債によって資金調達を行います。
つまり、自己資本だけではなく、1年以内に返済期限の到来しない長期借入金や社債などを含めて投資するお金をまかなえば、財務的に安全とも考えられるというのが、固定長期適合率の考え方です。
こちらも④固定比率同様に100%を切ることが望ましいとされています。

【用語】
長期負債とは、支払期限の到来が、1年以上後となる負債のことをいいます。長期借入金や社債等の長期金銭債務、退職給付引当金等の長期性引当金、その他繰延税金負債などが挙げられます。
JALの安全性分析をやってみよう
ここで実際に、賃借対照表を利用して安全性分析をしてみましょう。ここで取り上げるのは、日本航空です。リーマンショックの影響が色濃い2008年3月期と、直近の2018年3月期の賃借対照表を使って安全性分析をしてみましょう。

【解答】
固定比率 = 279%(2008)、107%(2018)
固定長期適合率 = 107%(2008)、98%(2018)
自己資本比率 = 22%(2008)、59%(2018)