Earnest Capitalが新たに生み出した資金調達手段「SEAL」についてご紹介します。
投資家にとっては、投資によって利益を生み出す必要があるため、何かと投資先に条件を付すのが一般的です。
しかし、こうした鎖が起業家の経営方針と一致しないことも少なくはなく、ただの重荷となっている部分もあります。
そうした起業家と投資家の利益を上手く組み合わせたのが、今回紹介するSEALと呼ばれる資金調達手段です。
SEALの仕組みとは
SEALを使って投資を行う、Earnest Capitalで紹介されているSEALについての解説をもとに見ていきましょう。
Earnest Capitalはシードステージに特化した投資を行っており、投資先に対してExitを必ずしも求めていないというのが特徴です。
※以下引用は全てEarnest CapitalのHPより行っています
SEAL概要
SEALは起業家が持続可能で利益を生み出すビジネスを構築するために生み出されました。
概要は、投資された金額にリターンキャップ(リターンの上限)を定め、投資先に利益が出ている場合に限り四半期に1回、上限に至るまでリターンを得られる、というものです。
SEAL契約書テンプレートはこちらからご覧になれます。
リターンキャップとは
We agree on a Return Cap which is a multiple of the initial investment (typically 3-5x)
Unlike traditional equity, our share of earnings is not perpetual. Once we hit the Return Cap, payments to Earnest end.
リターンキャップ(Return Cap)とは、文字通りリターン(配当)の上限のことを指します。
SEALでは、リターンキャップが3倍~5倍に設定されます。起業家からの支払がリターンキャップに達すれば、企業はそれ以上の支払をする必要がないのが特徴です。
言い換えれば、投資家は投資した分の3~5倍(契約上で設定した数値)を回収できればそれ以上のリターンは求めないということです。
SEALを導入する利点
利益が出ている時に支払いをする
As your business grows we calculate what we call “Founder Earnings” and Earnest is paid a percentage. Essentially we get paid when you and your co-founder get paid.
Founder Earnings = Net Income + any amount of founders’ salaries over a certain threshold.
また、この投資家への支払については、Founder Earningsという概念に従って支払いが行われます。
Founder Earningsは、生み出された純利益(GAAPに則す)に、閾値を超えた創業者の給与を加え、その合計に規定した割合を掛け合わせたものです。これを各四半期の直前に支払うことになります。

業績に関わらず毎月決まった額を返済する必要のあるデットでの調達と違い、企業側にとっては利益が出た際に無理なく支払いができるという側面があります。
一方で、投資家にとってもExit(あるいはExitできない場合)でいくらかになるか分からない将来の収益を心配する必要がないというのが利点であると考えられます。
経営に干渉しない

We don’t have any equity or control over the business. No board seats either. You run your business as you see fit.
さらに、特徴的なのがSEALの仕組み上、株式など発行することがないため、株式に基づく権利行使や、役員のポストを利用した経営への干渉がないということです。
エクイティによる資金調達であれば生じる、株主や投資家に対する説明責任がないため、自由に経営を行いたいと考える起業家にとっては大きなメリットといえます。
なお、投資家は取締役会にオブザーバーとして参加する権利がある他、リターンが正しい計算に基づいて行われているかを確認するために、会計に関する情報を見ることができます。
Exit(イグジット)に対して圧力がない
In most cases, we’ll agree on a long-term residual stake for Earnest if you ever sell the company or raise more financing. We want to be on your team for the long-term, but don’t want to provide any pressure to “exit.”
SEALはExitによってキャピタルゲインを得る従来の方式とは異なるため、Exitをすることに圧力を受ける心配がありません。(Exitに対する圧力の反面、事業提携先の紹介やハンズオン支援を行うVCも少なくないです。)
エクイティによる資金調達であれば、IPO(株式公開)やM&Aといいた第三者への売却(バイアウト)によって得られる利益(キャピタルゲイン)が投資家の利益となっていました。
そのため、目標とする上場時期を契約書上に定め、実現できなかった場合は株式の買取を要求するVCもあります。
そうした取り決めが、経営者にとってプレッシャーとなり、経営の自由度を阻害することになっているという事実は否めません。
株式への転換も可能
If you decide you want to raise VC or other forms of financing, or you get an amazing offer to sell the company, that’s totally fine. The SEA includes provisions for our investment to convert to equity alongside the new investors or acquirers.
VCやその他の資金調達、あるいは会社を売却することになった場合、投資金額に応じて株式への転換をすることについても規定上可能となっています。
会社が売却された場合どうなるか
On a sale of the Company, the Investor is entitled to receive the greater of (i) the Equity Basis or (ii) the amount the Investor would be entitled to receive if it converted the amount of the Return Cap remaining to be paid at the Valuation Cap.
会社が売却される場合、投資家は次のいずれか額が大きい方を得られます。①Equity Basis※、または②バリュエーション・キャップ(企業価値の上限)で換算された投資家が得られるであろうリターンキャップの残額。
※Equity Basisは、次のいずれか額が大きい方を指します。①リターンキャップの残額、②投資総額。
エクイティによる資金調達のように、一定の権利を投資家に与え、キャピタルゲインを得られるという側面を持ちながら、デットでの調達のようにあらかじめ定めた金額を超えない範囲で支払いを行うというハイブリッド型であることを確認できたかと思います。
起業家の自由度を確保しつつも、投資家の利益確保も可能にしたこの仕組みが活用されれば、起業及びシードステージへの投資に対するハードルも低くなるのではないでしょうか。